「春」
春は好きだ。
何も失っていないのに何かを取り戻せた気がして、それを暖かさが包んでくれる。
年末よりも1年を振り返ることが多くて、なんかんだで成長した自分を誇らしく思えるときも虚しく思えるときもある。
たいていの不安は後から見たら良い思い出で親友との初めての出会いもたいてい春。
春は嫌いだ。
この名前ぬるくて暖かい風が親友をどこかへ連れて行く。
せっかく1年間掛けて仲良くなれた仲を簡単に引きはがす。
「新しい」がこの春には詰まっていて変わりたくないと願っても変わらずにはいられない。知らない人。慣れない場所。思わず身体が強ばる。
校舎の床に付けられたワックスの匂いが昨
日のことのように思い出す。